ホームページだけやればいいと思ってる?

前回は、病院広報の概論という位置づけで、広報とは何ぞや~コンセプトの考え方までお話をしましたので、今回より伝え方の具体論に入っていきます。

本連載も残すところ2回となりました。お伝えしたいことが多々あり、今回はちょっと長いです。最後までお付き合いいただければ幸いです。

伝えるということ

相手の求めに応じたアウトプットをすること

そもそも伝えるってどういうことだろう?と考えてみると、コミュニケーションの基本は、相手のことを考え、相手の求めに応じたアウトプットをすることです。

広報のように、伝える相手が大きな集団になればなるほど、相手が見えにくくなりますが、情報を伝えるという根本に立ち返れば同じことです。本連載の主軸は、この相手が患者(予備軍含む)になります。患者のことを考え、患者の求めに応じたアウトプットをしていくことがポイントになってきます。

Pull型とPush型の伝え方

アウトプットの方法、つまり伝え方には、Pull型とPush型の2通りがあります。病院広報でいうと、患者が知りたい情報を伝えるのがPull型。一方、病院がPRしたい情報を伝えるのがPush型です。

今回は、このPull型とPush型の伝え方について、考えていきます。

 

Pull型の伝え方

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基本はホームページ

一般消費者が自分の知りたいと思う情報をどこから引き出すかというと、現在ではネットを利用する人がほとんどでしょう。

病院の情報も同様です。本連載第2回でも触れましたが、年代を問わず、半数近くの人が医療機関ホームページを見ています。つまり、病院広報におけるPull型の基本はホームページであるといえます。

ちなみに、病院ホームページを見る人が、どんな情報を欲しているのかというと、当社が管理する医療機関ホームページのアクセス解析を見ると、もっともよく見られているページは、診療科目や診療時間、休診日等が掲載されている「診療案内」です。

そんな情報は、ホームページに掲載しているに決まっている!と思われるかもしれませんが、ただ掲載しておけばいいというわけではないんです。

ストレスフリー

Pull型の情報提供でもっとも重要となるのが、ストレスフリーであること。

例えば、ネットがなかった時代、本を探す際にどうしていたかというと、書店に行って店員に聞くしかありませんでした。本を探すために、次から次へと書店員をたらい回しにされるという経験も、一度や二度ではありません。一冊の本の情報を即座に引き出せないことで、客に結構なストレスをかけることになり、時に購入意欲を奪います

一般消費者が必要とする情報を、必要な時に、ストレスなく提供することがPull型情報提供の必須条件です。

病院ホームページも同様で、“誰が見てもストレスなく”情報を引き出せるかが重要です。ここをクリアしておかないと、コミュニケーションの基本である、相手のことを考え、相手の求めに応じたアウトプットになっているとはいえません。

簡単なように思われるかもしれませんが、細かいテクニックが色々あります。スペースの都合上、細かい話は割愛しますが、じむコム内にホームページに関連するデータ集をアップしておきましたので、ご参考ください。

ストレスフリーなホームページだけあれば、病院広報がOKだと思ったらそれは大間違い。先に述べたとおり、患者がホームページで見ているのは、診療案内程度です。

広報担当者が伝えるべき情報は、診療科目、診療時間、休診日だけ?ですか?

もっと他に伝えるべき情報、伝えたい情報があるはずです。むしろこの“伝えたい情報”をどう伝えるか、つまり、Push型こそ広報の本質だといっても過言ではありません。みなさんが広報に悩みを抱える理由も、このPush型をどうしていけばいいかというところにあるのではないかと思います。

 

Push型の伝え方

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Push型の情報提供をするのに尻込みをしてしまう方が多いのは、どこか宣伝臭く、患者に煙たがられるのでは?と思うからではないでしょうか。Push型であっても、相手の求めに応じたアウトプットになっていれば、雑音にならず、役立つ情報として受け止めてもらえるんです。要は、その伝え方が大事だということ。

Push型のポイントは2つあります。1つ目は、いかに興味をもってもらえるコンテンツにできるか=コンテンツマーケティング。そして、2つ目はコンテンツをどう見せていくかのサンドイッチ戦略です。

コンテンツマーケティング

雑音にしないためのポイントの1つは、コンテンツマーケティングだと考えています。これからはコンテンツマーケティングの時代だ!なんて、最近、よく耳にします。

コンテンツマーケティングとは、有益な説得力のあるコンテンツを制作・配信することによって、ターゲット・オーディエンスを引き寄せ、獲得し、エンゲージメントをつくり出すためのマーケティングおよびビジネス手法を指す。その目的は、収益につながる顧客の行動の促進である。 出典: 電通報(2014.08.18)

カタカナ語が多いと、何か難しく感じるし、誤魔化された気分になるのは私だけでしょうか。私なりの解釈で簡単にいうと、いかに一般の人が興味をもってくれるコンテンツを仕立てられるかということに尽きると思っています。特に、医療においては。

そもそも医療って、自分や家族が健康な時には、まったく欲しくないサービスなわけです。必要に迫られなければ、知りたいとも思わないし、考えもしない。健康に何かしらの不安があったとしても、興味があるのは自分に関係していることだけ。高血圧の人が、腰痛には興味がないというように。

興味のない人に、伝えたいことを伝えられるかどうかは、コンテンツ勝負。いかに面白く、興味を引きよせるコンテンツにするかということになります。

簡単な例でいうと、糖尿病教室を開催することになったとしましょう。院内に掲示するチラシを作成する際、どちらのタイトルがより興味を引きやすいでしょうか?

  1. 糖尿病教室開催のお知らせ
  2. 栄養士にとことん聞く!メタボな旦那に何を食べさせる? 糖尿病教室開催

Aは、よく見ますが、正直全然面白そうには感じない。そもそも何をやるのかさえ分かりません。Bであれば、栄養士の先生が食事について、いろいろおしえてくれるんだな、自分が糖尿病じゃなくても参加していいんだなということが伝わります。教室の内容は同じでも、伝え方次第で、印象はもちろん、集客の結果も変わるでしょう。

 

みなさんの日常業務で簡単に取り入れられるテクニックを、2つご紹介します。

  • ターゲットを具体化する

人は自分に当てはまると思う(=ジブンゴト化できる)と、ぐっと興味をもちやすくなります。上の例であれば、“メタボな男性を夫にもつ女性”という具体的なターゲット像を提示していますよね。チェックリストを見せることも有効な手段の1つです。

  • ストーリー性を考えること

事実だけではなく、なぜそうなったか、何を考えたのか、何を目指しているかといった周辺情報も合わせて、ストーリーとして見せることがポイントです。

糖尿病教室のリード文であれば…

最近、メタボが気になる旦那さんは、糖尿病予備軍かも!?糖尿病の最大の敵は肥満。健康に気をつけてといくら言っても、飲んだ後にラーメンを食べてきたりするのが、旦那という生き物なんですよね。でも、糖尿病になってしまったら、キツイ食事制限に治療…家事も家計もより大変です!予備軍から糖尿病に“昇格”させないために、簡単ヘルシーレシピをご紹介します。

ちなみに、ストーリーの効果的な組み立て方は、ターゲットによっても変わります。チラッとキーワードだけをお伝えすると、男性には事実、女性には共感。ちなみに、上の例文は、女性向けなので、共感ポイントを多めに入れています。いつか詳しくお話しできる機会をもてたらいいなと思っています。

 

サンドイッチ戦略

Push型の情報提供での2つ目のポイントがサンドイッチ戦略です。これは、完全に私の造語で、テクニックに近いイメージですが、患者がほしいと思う情報と病院が伝えたい情報は、必ずセットでサンドイッチにしましょうということです。

地上波テレビをイメージいただけるとわかりやすいと思います。CMだけを見せるチャンネルがあっても誰も見ないですよね。番組を見たいから見ているのであって、その合間にCMがあるからついでに見ているわけです。

サンドイッチ戦略とは、“見たい”と“見せたい”を組み合わせるということ。“見たい”で視線を引き寄せ、そのまま“見せたい”ものにつなげていくという戦略です。

“見たい”ものは放っておいても見てくれます。“見たい”から“見せたい”へのシフトには注意が必要です。引き寄せた視線を外させずに、“見せたい”にスムーズに移行するには、最初のフックが重要になってきます。ここで、前段の“ターゲットを具体化する”テクニックが活きてきます。人間は都合のいい生き物なので、自分が知りたいと思う情報以外は、頭に入ってきません。目の前にあったとしても、無意識に情報を遮断します。だからこそ、ターゲットを具体的に提示することで、「あ!自分にも関係している!」とジブンゴト化させることが鍵

これができれば、冒頭に述べたように、相手の求めに応じたアウトプットになります。Push型でも押しつけがましくない情報提供だといえるでしょう。

 

情報伝達ルートを育てる

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手持ちのルートは整理を

Pull型・Push型という伝え方をみてきましたが、情報伝達ルートについても考えておく必要があるでしょう。情報伝達ルートとは、病院広報の相手となる患者や地域住民に情報が伝わっていく道路のようなものだと思ってください。具体的には、ホームページや広報誌、市民講座、院内掲示などが挙げられます。

みなさんの病院でも複数のルートをお持ちだと思います。手持ちのルートは何か、各ルートは誰を対象としており、どんな特性をもっているか、またそのルートの強み・弱みは何かを整理しておくといいと思います。いったん整理ができると、伝えたい情報はどのルートを使えばいいのかが考えやすくなります。

以下に、一般的な情報伝達ルートを整理したものを紹介します。こちらを参考に、みなさんのお手持ちのルートを整理してみてください。

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他に気づいていないルートはないか

本来、情報伝達ルートであるはずなのに、気づいていないルートもあると思います。患者と確実に接しているものはないかを考えてみてください。

例えば、問診票。初診の患者であれば、問診票はジブンゴト化してよく読んでくれるもの。スペースの都合はありますが、前段のサンドイッチ戦略に合致したルートであるといえます。他にも、患者アンケートや、受付で手渡している資料等、ルートがないかぜひ探してみてください。

話はそれますが、最近、面白いなと思ったルートは、駅のトイレットペーパー。

「歩きスマホ」の注意喚起を印字したトイレットペーパーを、駅構内のトイレに設置したキャンペーンで、SNS上でも結構な話題になりました。トイレ(個室)に入った人なら確実に触れるものですし、電車内からの流れで駅構内には歩きスマホをしている人が多くいます。歩きスマホをしながら駅のトイレに入ったら、トイレットペーパーに注意される!場所の面白さも相まって、印象に残させる情報伝達ルートだなと思いました。

 

院内という場所を大切にする

ホームページを見る人<病院に来る人

どうしても広報というと、外に対してというイメージが強く、ホームページ重視になりがちです。もちろんPull型の情報提供ルートとして、ホームページは不可欠ですが、なぜそれだけではだめなのかというと、そもそもホームページを見る人よりも、実際に病院に来る人の方が多いんです。

以下の数値は、医療機関ホームページのアクセス数と来院患者数を比較した数値です。ご覧のとおり、ホームページを見る人より病院に来る人の方が多いことがわかります。

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院内は、情報伝達のための価値ある場所であることを認識いただければと思います。

院内の患者が口コミをつくる

これまでにも何度かお伝えしてきましたが、既存の患者は決して無視できない存在です。病院の直接的な収益につながるサービスを利用してくれるのも、口コミをしてくれるのも既存患者だからです。患者1人1人が口コミを広げてくれる広告塔になると思えば、病院のことをしっかり伝えたいという気持ちにもなってきます。

今さらですが、当社は、医療機関専門のデジタルサイネージを20年近く提供している会社です。全国の医療機関で利用いただいていますが、一昔前は待合室のアメニティとして導入する医療機関が多かったように感じます。それがここ数年くらいで、既存患者に情報を伝えたいという目的意識をもって導入される医療機関が増えてきたなという実感があります。

既存患者に情報を伝えることの重要性と、その適切な場所としての院内の価値が認識されてきているということだと思います。

ちなみに、デジタルサイネージは、院内の掲示板やラック等に設置する冊子系とは異なり、強制視認が可能な媒体です。情報を流れで見せていけるので、サンドイッチ戦略も容易に取り入れられます。

そういったサイネージの利点を最大限に活用して、既存患者にうまく情報伝達をしている病院もありますが、残念ながら、まったく活用できていない病院もあります。例えば、自分たちが言いたいことだけを言っている、情報垂れ流し系。視聴者となる患者の視点が欠落しているので、つまらない内容になってしまっています。見てもらえなければ、情報は伝わらないので、何の意味もありません。

貴院でサイネージを活用している場合には、コンテンツマーケティングとサンドイッチ戦略をぜひ意識してみてください。放映内容が、果たして患者の視線を引きつけて離さないものになっているか!?

 

まとめ

広報というと外向きのイメージが強いため、ホームページが重視される傾向にありますが、本来、広報がやるべきことはPush型の情報提供であるということをお話ししました。次回はいよいよ最終回。次回は口コミについて掘り下げて考えていく予定です。口コミのトリガーになりやすい医師やスタッフにどう情報を伝えるべきかというところを中心にお話していく予定です。

 

今回のポイント

  1. 広報の本質はPull型ではなくPush型の情報提供であるため、ホームページだけをやっていてはダメ。
  2. Push型は相手の求めに応じたアウトプットになっていれば、好意的に役立つ情報として受け止めてもらえる。
  3. Push型のコツは、コンテンツマーケティングとサンドイッチ戦略である。
  4. 情報伝達ルートは整理しておき、また、ルートになり得る患者との接点がないかを考えておくとスムーズである
  5. 病院に来る人への情報伝達は口コミづくりのためにも不可欠で、院内という場所は価値があると言える

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株式会社メディアコンテンツファクトリー 担当: 伊藤