口コミはつくれる

半年にわたって連載してきました病院広報クライシスも、いよいよ最終回。前回は、患者への情報の伝え方をPull型とPush型に分類し、それぞれのコツをご紹介しました。(詳しくはこちら)

最終回は、病院広報の命題“口コミ”について考えてみたいと思います。

口コミを科学する

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病院広報の担当者で、患者からの口コミをまったく気にしないという方は皆無でしょう。

本連載第2回でも紹介しましたが、病院事務長のみなさんにご協力いただいたアンケートでは、患者を増やすための施策として、7割以上の方が「患者からの紹介や口コミを増やす取り組み」と回答しました。一方で、実際にその施策を実行している病院は4割未満です。

graph6-1なぜ、患者からの口コミを増やす施策を行っていないのか。それは、口コミは患者が勝手につくり出すものだから、病院の広報担当者が介入できるものではないという考えがあるかもしれません。

本当に、口コミには広報担当者が介入できる余地はないのか?口コミがどういうものなのかというところから掘り下げて考えてみましょう。

口コミの4割は医師・スタッフの対応、3割は診療内容

以下は、インターネット上の口コミサイトから病院についた口コミをジャンル別に集計した結果です。

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グラフを見てわかるとおり、医師・スタッフの接遇を合わせると40%になります。

具体的には、医師の説明が丁寧・わかりやすい、看護師の感じが良い・親切という口コミが多く見られました。中でも目立ったのは“女性の先生”というワードです。女性のもつやわらかい雰囲気からやさしい、親切、丁寧という印象につながるのではないかと思います。また、第2回で説明したように口コミのインフルエンサーは女性=口コミを書き込むのは女性が多いということも影響していると考えられます。(詳しくはこちら)

次いで、大きな割合を占めているのが、治療技術や専門性、特殊診療科目といった診療内容に関するもの。他院からの転院で症状が改善したという口コミが目立ちました。

しかし、すべての病院の口コミが医師・スタッフの接遇: 診療内容: その他=4:3:3の割合になっているというわけではありません。

それぞれの病院の特色が口コミになる

病院の機能別に口コミをジャンル別に集計すると以下のようになります。graph6-3-2
郊外型総合病院や地域密着型の病院は、医師・スタッフの接遇専門病院は診療内容の割合が大きくなっています。比較的規模が大きく、救急指定の病院では時間外の診療(夜間救急)での口コミ割合が高くなりました。この結果より、それぞれの病院の特色といえる部分が口コミとなっていることがわかります。

そもそも口コミというものは、自分が想定していた期待値を超えた結果が得られたときにはポジティブな口コミに、下回ったときにはネガティブな口コミになります。病院の特色がポジティブな口コミになりやすいのは、その病院が自信をもっていること、頑張っていることだからです。

第4回でお話したとおり、病院の特色=コンセプト、及び、その伝え方をつくっていくのは広報担当者の役割です。(詳しくはこちら) 病院の特色が口コミとなる以上、広報担当者が口コミづくりに介入できる余地は確実にあるはずなのです。

 

病院の特色は人(=職員)から人(=患者)に伝わる

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では、具体的に病院の広報担当者は、口コミづくりのために何をすればいいのかを考えてみましょう。

患者が病院で直接接する人は、医師をはじめとしたスタッフです。彼らがどのように患者に接するか、どのように病院の情報を伝えるかによって病院の印象はガラッと変わります。

たとえば、病院ホームページに「親切で心温まる医療を提供します」というキャッチコピーを掲載していたとします。ホームページを見た初診患者は、親切な対応を期待して来院します。しかし、いざ診察室に入ってみると、医師はパソコン画面ばかり見て、患者の目を見ようともしない。痛みを訴えている箇所に触れようともしない。薬を処方されただけで診察が終わってしまったら…。患者の期待値を大きく下回る結果となり、決して「親切で心温まる医療を提供」してくれる病院という印象にはつながりません。

ディズニーランドのキャスト(スタッフ)がその世界観を演出するように、病院のコンセプトを打ち出していく際には、やはりそれを体現できる職員の存在が必要不可欠です。

広報担当者は、自院のコンセプトが何か、コンセプトを実現するためにはどう行動すべきかまでを含めて、全職員に周知徹底していくことが求められます。

「知っているだろう」は思い込み、まずは職員に伝える

ここで注意したいのが、上に挙げた例を全面的に医師のせいにしないでいただきたいということです。その医師は果たして「親切で心温まる医療の提供」という文言がホームページに掲載されていること=病院のコンセプトであることを、きちんと把握できていたのかと疑ってほしいのです。

人(=職員)から人(=患者)に情報を伝えるということは、伝言ゲームのようなものです。子どもの頃に経験されたことがあるかと思いますが、こちらが伝えたかった意図が、どこでどうねじ曲がったのか、介する人が多くなればなるほどまったく異なる意味で伝わることがあります。広報担当者の意図のとおりに情報を伝えるためには、伝え手となる人(=職員)と認識を共有しておく必要があります。

もちろん、院長や事務長であれば、診療科目から特殊外来、検査等の設備まで病院のすべてを把握しているでしょう。しかし病院の場合、職員数も多く、その勤務形態も多様です。医師や看護師だけを見ても、常勤の職員もいれば、夜間のみのアルバイトの方もいます。

同じ病院の職員なのだから、「みんな知っているはず」というのは思い込みに過ぎないのです。

伝えるべきは…理念・行動規範・組織の役割

では、医師やスタッフに何を伝えればいいのでしょうか。

ここでは次の3点を挙げます。広報担当者は、この3点を理解してもらうためにどうメッセージ化するかを考えてみてください。

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1.病院の理念
よくホームページに掲載しているような“地域貢献”等、実際に何をしたらいいのかわからないような表現ではありません。患者にどのような病院と思われたいかが基本になります。何が得意な病院なのか、他院と差別化できるポイントはどこか、というところです。また、今後、どういう病院を目指すのかという目標を共有しておくことで、現時点では確立できていない特色を育てていくこともできます。

2.行動規範
行動規範とは、病院の理念を実現するために職員がとるべき行動のルールです。患者の質問や相談にはきちんと答えましょうとか、この病院でできないことは無理せずに他院を紹介しましょう、などが考えられます。常勤だけでなく、非常勤職員も共有できるよう、入職時のオリエンテーション資料として、まとめたものを準備しておくと便利です。

3.組織図と役割
単なるピラミッド型の組織図ではなく、各組織にはどのような役割があるのか、こういう場合は誰に相談すべきかを加筆していくと、医師やスタッフが患者の質問や相談に対応しやすくなります。

これら3点を職員が共有することができれば、職員自身も行動しやすくなります。もちろん、日々目の前の業務に追われる中で反発も生まれるかもしれませんが、続けていくことで組織の文化として定着していきますので、根気が大切です。

伝える方法は…いつでも閲覧できるもので

Media library at institute of a development of education

病院の職員の場合、シフト制での出勤になるため、全スタッフが一同に会して集まることはなかなか難しいですよね。バラバラに動くスタッフに、幅広く情報を伝えるためには、いつでも閲覧できる仕組みが必要です。ここでは、3つの方法を事例として紹介します。

広報誌
一般企業でいう社内報のような位置付けで、広報誌を作成している病院もあります。例えば、新入職員の紹介も、単なる回覧版のようなwordで作成した文章だけのお知らせよりも、顔写真を入れたり、本人のメッセージを入れたりした方が、親近感が増しますよね。読み物として面白い誌面をつくることで、読んでもらいやすく、伝わりやすくなります。

職員向けデジタルサイネージ
最近では、大規模な病院から職員向けにサイネージを導入するところが増えてきました。医局や職員専用の食堂にモニターを設置して、お知らせ等を流しておくだけでも、十分に認知効果を期待できます。

職員専用サイト
ログインをしないと閲覧できない職員専用サイトを運営している病院もあります。各種対応窓口を掲載し、院内の全PCで閲覧できるようにしておけば、患者からの相談にも困らずに対応できます。また、休診や検査機器の点検等、リアルタイムに発信したい情報にも対応できるでしょう。

少し余談になりますが、病院職員に対する情報伝達は、患者の口コミ対策はもちろんのこと、職員が働きやすい環境づくりにもつながります。

研修医や新卒ナースであれば、教育担当がつきますが、ある程度の経験を積んできた転職者は、自分からなかなか質問できなかったり、人間関係もよくわからないまま、誰に聞けばいいのかわからなかったりします。院内の情報伝達の仕組みをつくっておくことで、なるべく早い段階で病院組織を理解でき、本来の業務に注力できるようになるでしょう。

これにより、離職を防ぎ、広報担当者が頭を悩ませるもう1つの命題“人材確保”にも一定の効果を期待できるのではないかと思います。

 

インナーサークル内にある連携先医療機関も大事

Women who have received a gift from the girl

病院の特色は人から人へと伝えられるということで、ここまで病院の職員について見てきましたが、もう1つのルートとして、連携先医療機関の医師から患者への口コミというものも無視できません。ただ、連携先の医療機関も病院を中心としてインナーサークル内にあると捉えれば、情報伝達をしっかり行うという基本は職員と同じだと思っています。ここでは簡単に触れておきます。

連携先の開拓には、院長や医師同士のつながりに依存する部分が大きいですが、フォローという面では広報担当者が知恵を絞ることで、より関係性を強固にできます。診療所の院長の立場で考えると、やはり自分の患者を安心して任せられる病院か否かは気になるところです。万が一、間違いがあれば、その診療所の評判にも関わってきます。

そのため、連携先医療機関には安心感・信頼感をもってもらえるよう、定期的に情報を提供していくことが大切です。

ポイントはGive
もちろんただ病院の情報を提供すればいいというわけではありません。連携先医療機関との関係を強固にし、医師から患者への口コミを良いものにするためには、病院からのGiveを先に行うことがポイントです。このGiveは診療所にとってのメリットを提供するという意味です。

例えば、当社のデジタルサイネージを入れている病院では、病院待合室のディスプレイで、連携先医療機関の紹介映像を放映しているところがあります。連携先の各診療所を訪問して、病院内で紹介させてほしい旨を伝えると、そこまでしてくれるのかと感動してくれる院長が多いそうです。

うまくGiveをしていけば、連携先医療機関の院長クラスが病院のファンなってくれます。そうすれば、良い口コミに、そして、紹介率の向上にもつながっていきます。

 

特色を育てることが口コミをつくる

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今回分析した患者の口コミの中に、「スタッフの方全体に患者中心の精神が感じられます」というものがありました。その病院のホームページをみると、基本方針として「患者さんの立場に立った心温かな病院」と掲載されていました。おそらくスタッフの患者対応を病院ブランディングの要の1つとし、職員のマインドを育ててきた結果です。

また、私の知っている病院では「救急患者の受入れを絶対に断らない」という目標を掲げ、その地域では救急であればその病院というイメージを確立した事例があります。医師やスタッフからの理解と協力を得られるように、体制づくりはもちろんのこと、地域で1番の救急医療を提供するという特色を育ててきた結果です。

職員全員が認識を共有し、病院の特色を明確に打ち出していくことが口コミをつくるということになります。しかし、この2つの病院の例を考えてもわかるように、一長一短でできるものではないということです。小さなことを地道に積み重ねて、特色を“育てた結果”が口コミとして現れます。

また、前述のとおり、想定していた期待値を上回ればポジティブな口コミに、下回ればネガティブな口コミになります。そのため、 “育てる”過程では、患者に過度な期待をさせないことがポイントです。今できることとしてのラインをきっちり設け、そのラインからは絶対に下回らないようにすること。少しずつラインを高くしていくことができれば、自ずと良い口コミが増えていくはずです。

 

最後に

患者行動の分析からはじめ、半年にわたってお伝えしてきた病院広報クライシス全6回の内容はいったん今回で終了となります。

第4回でもお伝えしたとおり、病院広報とは、病院のコンセプトを考え、伝えていくことだと考えています。現在は、医療費が削減されているとはいえ、高齢化が進む中、医療業界は需要が供給を上回っている状態にあります。しかし、2020年には外来患者が、2025年には入院患者がピークを迎え、その後は減少に転じるだろうことが予測されています。(参考: 『診療所経営の教科書』大石佳能子・小松大介)

だからこそ、これからの病院経営では、病院各々が特色をより明確に、鮮明に打ち出して、地域住民に広く報せることが求められます。広報担当者の役割は、ますます重要になってきます。本連載が、みなさまにとって病院広報について考えるきっかけになれば幸いです。

貴院の広報について、何かお悩みのこと、お困りのことがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。末筆ながら、貴院の益々の発展をお祈りし、本連載を閉じさせていただきます。

 

今回のポイント

  1. 病院の特色が口コミになりやすいため、自院の特色が何かを明確にすることが大切である。
  2. 特色は職員から患者に伝わるので、職員全員に周知徹底する。
  3. 職員には理念・行動規範・組織の役割を、いつでも閲覧できるツールを使用して伝える。
  4. 連携先医療機関には、病院側が先に、その医療機関のメリットになることをGiveする。
  5. 病院の特色を育てる過程では、患者の期待値にラインを設けて、絶対にそのラインを下回らないようにする。

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株式会社メディアコンテンツファクトリー 担当: 伊藤