患者行動① 「病院に行く」というハードル

病院広報、何から考えはじめる?

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病院広報を考える際、みなさんはまず何から考え始めるでしょうか。広報手段を思いつく限り集めてみる方、とりあえず予算がいくら残っていたかなと考える方、そもそも広報とは何ぞやという定義から考える方…、様々だと思います。

敵を知り己を知れば、ではありませんが、今回は“相手”から考えてみようと思います。病院広報の相手とは、どんな手段で、どんな経路を辿っても、最終的に行き着く先は、患者となる一般の方々です。

連載初回となる今回から3回にわたっては、病院広報を考えるための土台作りとして、患者となる一般の方々の意識・行動を中心に考えてみようと思います。
第1回目は、そもそも論。一般の方は、普段、どの程度、医療機関に行く機会があるか、というところから見ていきます。

まずは患者を知らないと!

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どの程度の症状であれば受診する?

みなさんは、どの程度の症状であれば一般の方が医療機関を受診しようと思うか、ご存知でしょうか。当社が行ったインターネット調査の結果をご紹介したいと思います。

微熱程度の発熱や鼻水、咳などの軽い症状で「すぐに受診する」と回答した人は4%、めまいや頭痛、発疹などの自分では病気の判別がつかない症状では13%、インフルエンザやぎっくり腰といった急性、あるいは重い症状では55%という結果になりました。(図1)

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症状があってもすぐに受診しない理由をきいたところ(図2)、もっとも多かった理由は、「まずは様子を見たい」78%、次いで、「医療機関に行くのが面倒」34%、「経済的に負担を感じる」25%、「医療機関に行く時間の都合がつかない」21%という順になりました。

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特に、20代の若い世代では「経済的に負担を感じる」という回答割合が高く、また20~40代の仕事や育児が忙しい世代では「医療機関に行く時間の都合がつかない」という回答割合が高くなる傾向が見られました。

一般の人はほとんど医療機関に行かない!という事実

ちなみに、日頃、どの程度、医療機関に受診する機会があるかを聞いたところ、「ほとんど行かない」と回答した人が38%(図3)となりました。

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世の中の約4割の人は、健康診断でもない限り、医療機関に行く機会がほぼないということになります。さらに、医療機関の中でも病院に限定してみると、最近3カ月以内で病院に行ったことのある人は、約3割にとどまりました。

世代や性別でも結果に差はありますが、インフルエンザやぎっくり腰などの日常生活に支障をきたすような症状であっても、半数近くの人はすぐに医療機関を受診しないことになります。この結果から考えても、一般の人にとって医療機関を受診すること、つまり病院に行くこと自体がハードルの高い行為であるといえます。

みなさんの病院広報は、この高いハードルを越えることを目標としていないでしょうか。さて、それが本当に正解なのかを、例を挙げて考えてみましょう。

“億”をつかう製薬会社の疾患啓発、何人の患者を呼ぶ?

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少し話題が変わりますが、みなさんは、製薬会社が一般消費者に向けて行う医療用医薬品などのプロモーション(疾患啓発)の効果をご存知でしょうか。よくTVCMで見かける「あなたの症状は○○という病気かも!? お医者さんに相談しましょう」というアレです。

ある製薬会社の担当者から聞いた話では、潜在患者数の非常に多い医薬品で、キャンペーン時期に数億円の広告を投下しても、該当薬剤の処方は、医療機関1施設あたりで0.1人増える程度だとか。

製薬会社の疾患啓発は、マス媒体が活用されるケースが多く見られます。しかし、先に述べた調査結果のとおり、マス媒体の受け手の大半は、健康に不安や症状があっても医療機関に足を運ばない人たちです。

もちろん、製薬会社が疾患啓発を広く行うことには疾患の認知向上、潜在患者の発掘といった社会的意義もありますが、本来の目的である処方獲得=該当薬剤の売上げアップまでは、果てしない道のりです。要するに(言葉は悪いですが)、マス媒体での疾患啓発は患者の“青田買い”をしているようなものなのです。

“40万円”の電柱広告、その広報効果はいかばかり…

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製薬会社の疾患啓発と目的は異なりますが、普段、医療機関に足を運ばない人にも情報を提供し、病院に来てもらおうという面では、病院広報にも共通点があるといえます。

例えば、電柱広告や駅・道路脇の看板。これらを見る人の大多数は、マス媒体の受け手と同様、健康に不安や症状があっても医療機関を受診しない人たちです。では、電柱広告や看板も、患者の“青田買い”になるかというと、懐疑せざるを得ません。

7割の病院が電柱広告をやっている事実

今年の3月に、じむコムと当社の共同企画として、会員のみなさんにご協力いただき、病院広報に関するアンケートを実施させていただきました。(ご回答にご協力いただいたみなさん、その節はありがとうございました。)

アンケートの中では、集患・増患施策として、電柱広告や看板にどれくらいの予算を割いているかという質問をさせていただきました。その結果、電柱広告や看板に費用をかけて掲出していると回答した方は70%にも上りました(図4)。年間の維持費用は、平均41.6万円。小規模の病院ほど、高い予算で電柱広告や看板に掲出している傾向がありました。

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電柱広告の効果を冷静に考えてみる

電柱広告や看板などは、開院後、間もない時期であれば、周辺の地域住民に病院の存在や場所を認知させる効果があり、患者の“青田買い”にもつながるでしょう。しかし、開院後何十年も同じ地で開院されているような病院であれば、病院の存在は、周辺住民には周知の事実です。さらに、患者層の中心が高齢世代である場合、患者も、長年、その地域に住んでいる方が多いことが推察されます。つまり、電柱広告や看板は“青田買い”さえできていない可能性があるわけです。

おそらく、病院広報の主体であるみなさんにとっても、電柱広告や看板、電車や路線バスへの掲出は、気休めにしか過ぎないというところが実感だと思います。そのように感じられているのであれば、ぜひ予算の使い方を見直されることをオススメします。日常生活に支障がでても医療機関を受診しない人が、電柱広告や看板で病院名を見たところで、「そうだ!病院に行こう」という行動を起こしてくれるとは、到底思えません。

まとめ

みなさんが想像している以上に、一般の方を医療機関に足を運ばせることのハードルは高く、集患・増患に効果のある広報施策なんて本当にあるのかという気分にさえなります。

まさに字面のとおりの『広報クライシス』ですが(笑)、登山家が山に登る前に、その山の高さを調べるように、まずは、病院広報の行き着く先となる一般の方々の意識や行動を理解することから、はじめていきたいと思います。自ずと、その山は越えられる山なのか、越えるためにはどのルートが最適か、が見えてくるはずです。

次回は、いざ医療機関にかかることになった際、一般の方はどのように医療機関を「選ぶ」のかを分析します。

ポイント

  1. 日常生活に支障があるような症状が出ても、45%の人はすぐには医療機関を受診せず、一般の人にとって医療機関に行くこと自体、ハードルの高い行為である。
  2. 製薬会社が数億円の広告を投下しても、普段、医療機関に行かない人は動かない。
  3. 電柱広告や看板といった病院広報は、その大半が普段医療機関に行かない人に向けられており、開業年数や患者年齢層を考慮し、見直していく必要がある。

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