病院広報の仕事とは何ぞや

本連載の前半部3回では、病院広報を考えるための前段として患者行動をご紹介してきました。今回よりいよいよ本題の「広報」について考えていきます。後半部の初回となる今回は、概論として、そもそも広報とは何かというところからお話していこうと思います。

広報とは何か

photo5

広報とはコンセプトを伝えること

みなさんは、「広報とは何か」と聞かれたら、どのように説明されるでしょうか。おそらく、十人十色の回答が返ってくると思います。これは、言葉の定義の曖昧さとイメージの共有のしにくさが関係しています。

例えば、リンゴであれば、バラ科リンゴ属の落葉高木樹、またはその果実という定義で、赤くて丸い形をした果物というイメージを共有できます。

しかし、広報には、確かな定義がありません。よく使われるのが「広報とは社会とのより良い関係づくり」という表現です。あまりにも抽象的でよくわかりません。さらに、一般企業においても企業ごとに広報の位置付けは異なります。広告・宣伝とまとめられることもあれば、広報だけで企業担当・商品担当と細分化されていることもあります。つまり、広報はイメージも共有しにくいのです。

そこで、もっと単純化して考えてみようと思います。様々な広報活動を思い浮かべて、突き詰めていくと、この一言に尽きるのではないでしょうか。

「広報とは、企業や病院のコンセプトを伝えること。」

ここでは、広報とはコンセプトを伝えることだと定義して、話を進めていきます。

広報担当者の仕事は設計者である

広報とはコンセプトを伝えることだとすれば、広報担当者が担う役割は、次のような段階に分けることができます。

  • コンセプトを考える・決める
  • 伝え方を考える・決める

広報担当者の仕事は、伝えるべきコンセプトとその伝え方を考え、決める=設計することだといえます。コンセプトは決めればいいだけの話なので、「伝え方を考える・決める」ことが広報担当者の日々の業務にあたります。

 

ディズニーを例に広報を考える

コンセプトのイメージを共有しやすいディズニーを例に考えてみます。ディズニーテーマパークのコンセプトは、あらゆる世代の人々が楽しむことができる“ファミリーエンターテイメント”だそうです。これは、創業者であるウォルト・ディズニーの思いから生まれたコンセプトです。

私はディズニーランドが、幸福を感じてもらえる場所、大人も子供も、ともに生命の驚異や冒険を体験し、楽しい思い出を作ってもらえるような場所であってほしいと願っています。

伝え方には直接と間接の2通りある

ディズニーを例に考えていくと、コンセプトの伝え方には大きくわけて“直接”と“間接”の2通りがあるといえます。

“直接”の代表例がテレビCM。伝えるべき相手=一般消費者に直接アプローチする手法です。国内外で感動的だと話題になったのが“夢がかなう場所”というアニメーションのCMでした。

CMでは、1人の女性の人生が描かれています。小さな少女がディズニーランドとともに成長していくというストーリーで、親に連れられて初めて訪れ、成長するにしたがって、一緒に行く相手が親から友達、彼氏、やがて自分の家族に。最後は、おばあさんになった女性が、シンデレラ城を見て、人生を振り返っているようなシーンで締めくくられています。

1人の人生のどの段階を切り取っても、東京ディズニーリゾートは変わらずにそこにあり、その時々に夢を見せてくれる、楽しませてくれるというコンセプトが伝わってきます。

そして、“間接”は、人。一般消費者に広報が直接アプローチするのではなく、自社のスタッフにコンセプトを体現させるという手法です。有名な話ですが、ディズニーのスタッフはキャストと呼ばれ、徹底的な教育を受けます。ディズニーの世界観を演出し、コンセプトを体現する役割は、自分たちキャストだという高い意識をもっています。あらゆる世代の人がその世界観を共有できるのは、キャストの貢献が大きいでしょう。

 

病院の広報とは

Bousai_001

病院のコンセプトを患者に伝えること

ディズニーで考えたことを図式化し、病院にあてはめて考えてみましょう。

1

病院の場合は、伝える相手は患者と患者予備軍となる地域住民になるところが異なるだけで、根本的には同じだと考えられます。

病院の広報担当者の仕事も設計者である

病院の広報担当者の仕事も同様で、コンセプトとその伝え方の設計が主になります。コンセプトについては後ほど述べますが、病院の広報担当者が日々やっていることは、やはり伝え方を考え、決めることです。

コンセプトを直接伝えるのは、ホームページであったり、広報誌などの紙媒体であったり、テレビや新聞、雑誌などのメディアであったりします。こちらは、みなさんが日々やられている業務に近い領域になるので、イメージがしやすいかと思います。

ちなみに、本連載の第1回で電柱広告を広報と捉えることに懐疑的な意見を述べました。それは、電柱広告は、何かを伝えるには不向きな媒体だからです。様々な制約の中で、電柱広告でいえることは病院名と住所、電話番号、よくて診療科目といった基本情報くらいです。これは“コンセプトを伝える”という広報の定義からは外れます。だから、電柱広告を出していることで広報をやった気になるのはダメだということです。

間接的な伝え方としては、病院も同様に、人=職員になります。

医師に限らず、病院の職員は日々の業務の中で何かしら患者に接する機会が多くあります。病院について患者に質問をされた場合、一患者の対応に広報担当者が出ていくかというと、現実的には無理な話です。現場のスタッフ一人一人が対応していくことになります。そう考えると、職員一人一人を通じて、病院のコンセプトが患者に伝えられるようにしておく必要があります。各々にそのことを意識させる=広報マインドを育てることは、広報担当者の重要な任務だといえます。

 

病院のコンセプトを考える

photo4

病院広報の具体論として、今回は、コンセプトを決めるというところまでお話しします。伝え方についての個別具体論は、第5回、第6回で取り上げていきます。

キャラクター設定だと考える

病院のコンセプトというと、理念とか方針とか、難しくなりがちなので、人のキャラクター設定と同じだと考えると、わかりやすいと思います。

社員の採用面接をしていて思うのは、言い方は悪いですが、“ただのいい人”が結構多いということ。恋愛でも同様ですが、「いい人だけど…」という言葉を耳にすることってよくありますよね。いい人というのは、褒め言葉ではなく、良い面も悪い面も尖った部分がないために、記憶に残らないということだと思うんです。“ただのいい人”になってしまっている人は、自分がどういうキャラクターで、どういう特徴を押し出していくのかということが、自分自身で理解できていないのです。

自己評価と他己評価の重要性

キャラクター設定で重要なのは、自己評価と他己評価の両面から自分を分析することです。自己評価では、強みだと思っていたことでも、他人からするとそうでもないことがあります。また、その逆も然りです。

小学生の男子を例に考えてみましょう。

2

この表から、自分の強みで伝わっていないことと他者が評価してくれた強みから、彼の押し出しポイントは暗算・足が速い・面白いという3点に絞ることができます。それらを掛け合わせると、以下のようなキャラクター設定になるでしょう。

“暗算と走るのが得意な面白いヤツ”

勉強もスポーツもちょっとできて、面白い。小学生男子としては最強のキャラクター設定が出来上がりました。

逆に、自分では時間を守っていると思っていたつもりでも、他人からは時間にルーズという正反対の評価がありました。他己評価をせずに、自己評価だけで時間を守るということを押し出していたなら、“嘘つき”というレッテルを貼られるかもしれません。

病院の自己評価と他己評価

病院のコンセプトも同様にキャラクター設定、自分の押し出しポイントはどこなのかを、自己評価と他己評価の両面から考えてみてください。

自己評価では、患者からどのような病院だと思われたいのか、また、病院の自慢できる・自慢したいポイントは何かを挙げてみてください。

切り口の例としていくつか挙げておきます。

  • 地域のホームドクターとして気軽に相談できる
  • 専門領域での医療知識を提供してくれる
  • 慢性疾患など長期にわたり付き合える
  • 自由診療など幅広い選択肢を提供してくれる
  • 夜間や在宅など柔軟な診療体制が整っている
  • 医師やスタッフが丁寧に説明・対応してくれる
  • 医療機器など最新の設備がある
  • 建物や内装が整備され、アメニティが充実している

自己評価では、1つを選ぶ必要はなく重複してもいいですし、また、現在はできていないが、今後伸ばしていきたいという点も考慮に入れてみてください。

一方、他己評価は世間からどのように見られ、何を求められているのかを知ることが重要です。そのため、相手は患者が最適です。例えば、問診票に1問アンケート項目を追加して、なぜ当院を選んだのかということを聞き取るだけでも大きなヒントになります。

自己評価と他己評価をすり合わせていくことで、押し出すべき特長がわかり、コンセプトが決定しやすくなります。

 

まとめ

病院の広報とは、コンセプトを患者や患者予備軍となる地域住民に伝えることだと定義し、コンセプトの考え方までお話をしてきました。もちろん、広報にはありとあらゆる側面があり、危機管理のためのメディア対応等も含まれます。ただ、本連載では、患者行動という切り口から話を展開してきましたので、対患者というところに焦点をあてて、次回からは“伝え方”の具体論に入ってきたいと思います。第5回は直接的な伝え方、第6回は間接的な伝え方をご紹介します。

 

ポイント

  1. 広報とは企業や病院がコンセプトを伝えることである
  2. 広報担当者はコンセプトとその伝え方の設計者である
  3. 病院のコンセプトは自己評価と他己評価の両面から考える

本連載に関するご意見・ご感想、こんな内容を取り上げてほしい等のご要望がございましたら、以下宛先までお気軽にご連絡ください。
ご意見・ご感想・ご要望の宛先 mcf@media-cf.co.jp
株式会社メディアコンテンツファクトリー 担当: 伊藤