患者行動②「病院を選ぶ」ことへの迷い

第1回は、一般の人は、“どの程度医療機関に行くか”についてお話をしました。詳しくはこちら

第2回となる今回は、いざ医療機関に行くとなった場合、人は“どのようにして医療機関を選ぶのか”という点について考えていこうと思います。

最善の選択をしたいと思うほど、人は迷う

Illuminated Taxi Sign

2014年秋にフジテレビ系列で放映されたドラマ「素敵な選タクシー(センタクシ―)」をご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。芸人バカリズム脚本、竹野内豊主演で話題になりました。

不思議なタクシーが、人生の選択に失敗した乗客の人生を巻き戻し、選択のやり直しをさせてくれるというファンタジックなストーリーでした。

このドラマの冒頭で語られた、次の言葉が印象に残っています。

人生は選択肢の連続だ。

まさにそのとおりで、私たちは、日々、様々な選択を繰り返して生きています。ランチのメニューといった些細な選択から、就職や転職、結婚か離婚かといった人生の岐路ともいえる大きな選択まで。

人は何かを選ぶ際、「最善と思える選択をしたい」という心理的欲求が働くため、多少なりとも迷うものです。大きな選択になればなるほど、迷いも大きく、慎重になるでしょう。

人はどのようにして医療機関を選ぶのか

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医療機関を受診する際にも、まずどの医療機関に行くのかを“選ぶ”行為から始まります。インフルエンザの予防接種のように、どこの医療機関に行っても同程度の質が保障される場合は別ですが、手術や入院が必要になるかもしれない場合、自分の生命を預けるわけですから、病院選びには慎重になります。

医療機関選びは、近さ・専門性・評判

医療機関を選ぶ際に、何を重視するかを聞いたところ(図1)、もっとも多かった回答は「家や職場からの近さ」80%となりました。通院のしやすさは誰もが重視する点です。

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次いで、「自分が受診する診療科目の専門性の高さ」41%、「家族・知人からの評判」36%という順になりました。近さに加え、診療内容の専門性と周囲の評判が重視されることがわかります。

身近な人の口コミがもっとも信頼される

医療機関選びのために、人は様々な情報を収集します。どのような情報を収集するのか、そして、その中でもっとも信頼する情報は何かを聞いたところ、次のような結果が得られました。(図2)

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収集する情報は、「家族や知人の口コミ」54%、「医療機関のホームページに記載されている情報」47%、「医療機関の口コミサイト等の口コミ」30%という順になりました。

一方で、収集した情報の中で、もっとも信頼する情報を1つだけ選んでもらうと、断トツで「家族や知人の口コミ」46%となりました。

病院経営に携わるみなさんの中には、インターネット上の口コミを気にされる方がいらっしゃいます。しかし患者側からすると、ネット上の口コミはあくまでも参考情報程度に過ぎません。

信頼に足るべきは、顔の見えない“誰か”ではなく、家族や知人といった身近な人の評価なのです。

口コミのインフルエンサーは“女性”

ここで、いったん評判・口コミというものにクローズアップしてみましょう。

評判・口コミを男女別でみると(図3)、男性に比べて女性の方が、医療機関を選ぶ際に「家族・知人からの評判」を重視し、「家族や知人の口コミ」を収集し、さらに信頼する傾向にあります。医療機関口コミのインフルエンサーは女性であるといえます。

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少し話が逸れますが、この結果を見た時、専門学校で写真をおしえている知人の話を思い出しました。

学生に「1週間、毎日写真を撮る」という課題を出すと、男子学生が撮りためる写真は、街並みや行き交う人々のような、撮影者である自分と被写体の間に一定の距離があるものが多くなる。対して、女子学生は自分の半径3m以内が被写体になっている写真が驚くほど多い。例えば、自分の化粧ポーチの中身、クローゼット、目の前にいる友人や彼氏、家族、さらには自分の手足とか。写真を本格的に勉強し始める前の新入生に、この課題を出すようにしているんだけど、毎年、傾向は同じ。

女性というのは、自分の半径3m以内に非常に関心が高い生き物なのかもしれません。だから、医療機関選びに限らず、どの業界でも、女性の方が身近な人の口コミを重視する傾向が強いのでしょう。

ちなみに、男性に比べて、医療機関受診の敷居が低いのも女性です。本連載第1回でも触れましたが、どの程度の症状で医療機関に行くかという意識調査では、各症状で男性に比べて女性の方が早めに受診行動をとることがわかっています。(病院広報クライシス第1回参考資料参照)

口コミのインフルエンサーであり、医療機関に行く機会が比較的多い女性のハートをつかむことは、病院広報でも重要なポイントになります。女性がよく見ている半径3m以内には夫や父親、子どもなどの家族の存在があり、家族に受診を勧めてくれることも期待できます。

評判と専門性の双方で納得できた医療機関を選びたい

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では、医療機関選びのすべてが口コミかといえば、必要十分ではありません。

良い・悪いの口コミと事実のホームページ

口コミは、往々にして「あの病院の先生、丁寧で良かったよ」とか、逆に「先生の態度が悪いから、あの病院はやめておいた方がいいよ」といった良いか悪いかの(個人的な)評価に終始します。そのため、医療機関選びで重視する点の1つである診療科目の専門性までは、口コミは語ってくれません。

専門性は、やはり病院発信の情報=事実であるホームページが参考にされます。実際、先に述べたとおり、医療機関選びで収集する情報(図1)では、「家族や知人の口コミ」に次いで、「医療機関ホームページに記載されている情報」が多くなりました。

これは、若い世代に限ったことではなく、年代別で見ても(図4)、ほぼ差がないことがわかります。病院を選ぶ際にホームページを見るということは、年代を問わず当り前の行動になっています。

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選択行動のAパターン・Bパターン

これまでを総合すると、患者が医療機関選択時にとる行動は、次のように推測できます。

Aパターン

  1. 家族や知人から医療機関の評判を聞く
  2. 評判を聞いた医療機関のホームページを見て、診療内容を確認する

この逆も想定できます。

Bパターン

  1. インターネットで検索して、医療機関ホームページから診療内容を確認する
  2. その医療機関の評判について、家族や知人に聞く

医療機関選びで重視する「家族や知人の評判」は口コミで、「自分が受診する診療科目の専門性」はホームページで、というように患者は情報源を使い分けます。定性情報である口コミと、定量情報であるホームページの両方を勘案し、双方で納得した情報が得られた医療機関を、患者は最終的に“選ぶ”のです。

病院広報のベクトルは外から内へ

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わかっていてもできない口コミづくり

病院事務長のみなさんにご協力いただいたアンケートでは、患者を増やすための施策として、7割以上の方が「患者からの紹介や口コミを増やす取組み」と回答しました。一方で、実際にその取組みを実施していると回答した方は38%にとどまりました。(図5)

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みなさん、口コミの重要性は理解していても、なかなか行動にうつせないという現状があるようです。

口コミをつくるのは内の人たち

そもそも口コミとは何かを考えると、期待と現実の差ということができるでしょう。「利用前の期待値」<「実際のサービス」であれば、良い口コミに、逆であれば、悪い口コミになります。そして口コミをつくり出せるのは、実際にそのサービスを利用した人たちだけです。

みなさんも、はじめから形が見えにくいようなサービス、例えば、飲食店や美容室、ホテル等の宿泊施設、結婚式場や住宅メーカーなどを利用する場合、口コミを参考にすることが多いと思います。

このような業界では、口コミを非常に重視します。既存の顧客を大事にする傾向が強く、彼らが何を求めているか、何を期待しているかを徹底的にリサーチします。また、利用後の口コミを吸い上げてサービスの改善を行うなど、口コミをマーケティングにうまく活用しています。

同時に、自らの情報発信も怠りません。ホームページで定量情報を発信しておくことで、必要以上に期待値を上げ過ぎないという予防線をはることができるからです。

医療も同様に、はじめから形の見えにくいサービスだといえます。口コミを効果的につくり出すためには、やはり既存の患者さんを大切にすることが近道です。病院広報というと、ついつい外を向きがちになりますが、内向きのベクトルこそが必要不可欠なのです。まずは、病院に来てくれる患者さんが何を期待しているのかを知るところかはじめてみてはどうでしょうか。

まとめ

医療は、はじめから形が見えにくいが故に、口コミが重視されやすいサービスの典型です。

口コミは利用者がつくり出すものですから、病院広報には、既存の患者を最重要とする視点が必要になります。特に、どの業界においても、口コミの中心となるのは女性です。女性のハートをつかむことで、女性の周囲にいる男性(家族)をも取り込むことができるようになります。

患者が病院を選ぶ際には、定性情報である口コミと、定量情報であるホームページの両方を勘案して、最終的に来院するかどうかを決めています。悪い口コミを防ぐためにも、必要以上に期待値を上げないこと=病院発信の情報をきちんと提供していくことも必要でしょう。

こういった患者の選択行動を理解した上で、どこに主軸を置くべきなのかを考えると、もやがかかっていた病院広報の視界も、多少なりともクリアになってきます。

今回のポイント

  1. 医療機関選びで重視されるのは、近さ・専門性・評判の三点。
  2. 専門性は病院発信の情報=ホームページを、評判は身近な人の口コミを確認し、双方で満足が得られた医療機関を患者は選ぶ。
  3. 女性は口コミを重視する傾向が強く、医療機関口コミのインフルエンサーは女性だと言える。
  4. 口コミは利用者がつくり出すため、病院広報には内向きの視点=既存患者のための施策が必要不可欠である。

 

次回は、医療機関を選んだ後のお話。受診時の患者行動について考えてみようと思います。


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