前回は、概論として、薬局・薬剤師を取り巻く環境の変化をまとめました。今後、地域医療の担い手としての役割が期待される健康サポート薬局、および、かかりつけ薬局についての話でした。
しかし、現実的には、目の前の仕事が急に変わるわけではありません。いまいちピンとこないというのが本音ではないでしょうか。
今回は、未来の薬剤師をイメージしようと思います。目の前の仕事から離れることで、明日からの仕事のヒントが少し見えてくるかもしれません。
30年後の薬剤師の仕事はどうなっているだろう
AIに取って代わられる仕事は確実にある
ここ数年、話題の人工知能(AI: artificial intelligence)。いずれAIに取って代わられる仕事・職種が、よく議論されるようになりました。
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン氏は、「雇用の未来」という論文の中で、AIによりあと10年でなくなるだろうという職種を発表しており、銀行の融資担当者やスーパーのレジ係などがその例です。参考: マイケル・A・オズボーン「雇用の未来」
調剤業務は、なくなる可能性が高い
今、薬剤師の主たる業務となっている調剤や薬歴チェックなどは、ロボットやAIに取って代わられる領域ではないかと思います。30年後には、きっと患者さんの薬歴は、ほぼスマホに入っている時代になっているでしょう。スマホをかざせば瞬時に薬歴がわかり、今回の処方と重複の飲み合わせがないかなどのチェックが自動的に行われるようになる未来は、そう遠くはないはずです。
クリエイティブでより楽しい仕事ができるようになる
しかし、薬剤師の仕事がすべてなくなってしまうかというと、私は、そうではないと思います。あるブログに書いてあって、なるほどと思った一文を引用させていただきます。
要するにAIでなくなるのは、まずは「できればやりたくない仕事」です。(中略)
「AIによってクリエイティブな仕事は奪われるのではなく、より楽しくなる」ということです。
AIに仕事を奪われてしまう、というのは間違いではありませんが、どちらかというと「奪ってくれてありがとう」と感謝することの方が多いのではないかと思います。AIで仕事がなくなっちゃう!というよくある誤解 ( shi3zの長文日記 2017/03/08 )
単にAIに仕事を奪われるということではなく、もっと楽しい仕事ができるんだという姿勢が大事なんだと思います。薬剤師の仕事にもそういった領域があるはずです。
薬剤師にとってクリエイティブな仕事とは何だろう
クリエイティブとは自分の頭で考えること
そもそも「クリエイティブ」と「薬剤師」というワードが結びつかないという方もいるかもしれません。
確かにクリエイティブな仕事というと、“ものづくり”と考えられがちです。しかし、そういった直接的なことに限らず、どんな仕事・職種にもクリエイティブな側面はあります。なぜなら、クリエイティブとは自分のアイディアをもとに創意工夫することだからです。
そう考えると、薬剤師や経理の仕事にも、家事にも、クリエイティブになる領域があると思いませんか。
“自分だからこその良さ”が光る業務にクリエイティブ性
「誰にでもできる仕事がしたい」という人はほとんどいないと思います。「自分だからこその良さを評価してもらえる仕事がしたい」というのが人の自然な欲求です。
薬剤師の皆さんは、医療に携わりたい、人の役に立つ仕事がしたい、という思いを持って、ご自身の仕事を志された方が多いように感じます。そんな皆さんであれば、当然、上記の欲求を(もしかすると、他の人よりも強く)持っているのではないでしょうか。
“自分だからこその良さ”とは何か。そこに薬剤師にとってのクリエイティブな仕事があるはずです。
語弊を恐れずにいうと、薬剤師の業務において、調剤業務は、もちろんミスは許されませんが、個々の薬剤師によって大きな差が出る部分ではありません。
むしろ、患者さんとのコミュニケーションなど、調剤以外の業務にこそ、“自分だからこその良さ”が光る、クリエイティブにできる点が多々あるはずです。
美容の仕事を考えてみる
BA(ビューテーアドバイザー)は美容のプロである
ここで、少し薬局を離れて、他の職業、美容・化粧品の世界を考えてみたいと思います。
女性が化粧品を買う場所には、百貨店のコスメカウンターやドラッグストア、バラエティショップなど(最近ではコンビニでも)、さまざまなところがあります。
また、各ブランドには、ビューティーアドバイザーと呼ばれる方がいて、各売り場でそのブランドの化粧品を相談したり、試したりしながら、買うことができます。
私自身は化粧品の世界には詳しくないので、弊社の女性スタッフ何名かに話を聞いてみました。
年齢が若いうちは、ドラッグストアやバラエティショップで、パッケージが好きなものや話題の商品を選ぶ傾向にあるようです。年齢を重ねるにつれ、そろそろちゃんとケアしようという思いから、その道のプロ=BAに相談してより良いものを選びたいということで百貨店のコスメカウンターを訪れるようになるのだとか。
女性の方はご存知かと思いますが、BAには、基礎化粧品担当やメイク担当などに分かれていたり、得意分野を持っていたりと、個性があります。また、美容師のように、自分の担当のBAがいる場合もあり、相談があればその担当のBAを訪ねることもあるそうです。
BAも“自分だから”を考え、創意工夫の連続である
最近では、ドラッグストアでもBAのようなスタッフを配置するところが増えています。
ブランドごとのBAは、自社ブランドの商品のみが守備範囲ですが、ドラッグストアにいるBAは、簡単な肌の状態チェックやお客さんの悩みをヒアリングし、その店舗にある全メーカの商品からお客さんに合ったものを選び、オススメしてくれます。
先日、YAHOO! ニュースでも取り上げられていましたが、大手ドラッグストアチェーン マツモトキヨシにもBAという職種がいて、BAによって店舗の売上が変わるほどのスタッフもいるそうです。
メーカを超えて総合的に化粧品の相談が出来る一方、BA側では、あらゆる情報を収集し、日々の勉強が非常に重要です。
ブランド付きのBAも、ドラッグストアの化粧品担当スタッフも、“自分”だからお客さんに相談してもらえる、信頼してもらえるためにはどうするかを考え、日々、創意工夫の連続なのだろうと思います。
薬剤師が売るのは「薬」ではなく「健康」
女性は、化粧品を買う時、化粧品が欲しいというよりは「少しだけキレイな自分でいたい」という典型的なコト消費です。
薬についても同じことがいえます。
いかに「健康」を提供できるかが薬剤師の“自分だからこそ”
医療機関・薬局にくる患者さんは、「薬が欲しい」のではなく、「健康が欲しい」のです。そのための手段が薬であり、サプリメントであり、健康食品であり、さらには医療や健康に関する情報であったりします。
薬局・薬剤師にとって、保険業務というのはもちろん収益上の中心ですが、仕事としてはあくまでも患者さんとの接点・きっかけにすぎません。そこを超えて、いかに患者さんに「健康」というコトを提供できるかが、薬剤師のクリエイティブな仕事であり、未来の薬局において最大の差別化要因になってくると思います。
あらゆる方面の知識と対人スキルが求められる
ひとりひとりの薬剤師がクリエイティブ力を発揮するためには、単に薬の知識だけでなく、あらゆる方面にアンテナをはり、サプリメントやトクホなどの健康食品の知識を獲得していくことも重要です。また、患者さんから相談してもらえる、信頼してもらえるコミュニケーション能力も大切です。
「あの薬剤師さんに聞いたら、役立つ情報をもらえる、だからあえてあの薬局に行こう」、と患者さんに思ってもらえたら、第1回で話した「もっとも身近な医療人=薬剤師」という未来の薬剤師像が実現するのではないでしょうか。
商店街の健康ステーション
では、薬局という「場」はどうなっているでしょうか。
きっと、商店街に1つはある「健康ステーション」のような存在になっているのではないかと想像します。
そこでは、定期的に患者さんのお悩み別のイベントが開催されています。
花粉症で悩む患者さんのセルフケア相談会、腰痛対策の体操教室、高血圧症の家族がいる方を対象にした料理教室などなど。
そして、骨密度や体脂肪、血圧の測定などのちょっとした検査や測定などもできて、病気になった人や病気を予防したい人が立ち寄るところ。地域住民みんなの健康をつくる共有の「場」、そんな薬局になっていると思います。
それは理想論であって、保険収入の中で、現行制度に則ってやる以上、無理なこともあると思われる方も多いかもしれません。もちろん、すぐにすべての薬局がそうなれるわけでもありません。
でも、無理だからやらないのではなく、机上の空論と言われようとも理想を掲げて、その実現のために“今”できることは何かを、日々、考えていくことが(薬局に限らずですが)、経営者には求められると思います。
次回以降、現行制度の中で、独自のおもしろい取り組みを行っている薬局をご紹介していきます。実際にどんな取り組みや方法をとって患者さんからどんな反応があるのかなど、取材していく予定です。