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Colum 未来の薬局

【未来の薬局 最終回】未来の薬局の卵達
−薬学生座談会

このコラムでは、7回にわたり「未来の薬局」とはどうなっているのか、そのヒントを探ろうと様々な薬局の方にインタビューをさせて頂きました。連載はもともと1年間ということで、面白い取り組みを行っている薬局もまだまだありますが、一旦今回で最終回としたいと思います。

最終回にあたって、どんな企画が良いかなと考えた時に、「どうせなら、未来の薬局の主役となる、これからの薬剤師(=薬学生)に最後は締めてもらおう」という事になりました。

ということで、最終回の今回は薬剤師の卵、「薬学生」4名に集まって頂き、座談会を開催させて頂きました。みなさん、学生団体などを通じて知り合った、それぞれ異なる大学出身の4名です。

今回は学生の皆さんには弊社東京オフィスに集まって頂きました。夜7時からだったので軽い軽食や飲み物交えて。

今回ご参加頂いた学生は下記の4名の学生さん。皆さん異なる大学の4年生です。

慶応大学 中川さん

昭和大学 浅野さん

星薬科大学 志水さん

東京大学 名倉さん

薬学部・薬剤師を目指したきっかけ

まずは皆さんに、薬学部を選んだきっかけや薬剤師を目指したきっかけなどをお話頂きました。

みなさん、薬剤師は目指しているんですか?

私は、実習で病院とかで亡くなる方とかを見て、嫌になってしまって医療には携わりつつ、医療現場でないような会社に興味がありました。医療アプリをやっている会社とかにインターンなんかもしていて。でも、授業で地域医療の勉強をするうちに、在宅でその人らしい生活が出来る姿とかを見て、そういったことのお手伝いが出来るのは素敵だな、と思って今は薬剤師志望に戻ってきました(笑)

なるほど、一周回って薬剤師志望に戻ってきたんですね(笑)

私は逆に、今は薬剤師志望ではなくなりました。いろんな話を聞いたりインターンに行ったりして、自分がその中で一薬剤師として働いているイメージが湧かなくて。もちろん目の前の患者さんを治していくのも大切だけど、それよりもっと大きな枠組みを変えられるような仕事が出来たらなと思ってます。

研究者とか?

いえ、研究者はあまり見てないです。矛盾しているかもしれないけど、一薬剤師ではないと言いつつ、患者さんや健康な人とかが見えないところで働くのは自分には無理だなとも思ってます。医療系を目指したモチベーションもそこにあるので。

他に研究者を目指している人はいますか?

私は最初薬学部を志望した時は研究者を目指してました。受験する時に生物系とかの中に薬学部もあっただけなので、薬剤師になりたい!と思ったわけではないんですけど、授業を受ける中で、だんだん薬剤師が何をやっているのかが見えて来て、自分も薬剤師をする中で一般の人にも薬剤師の仕事を知ってもらうような事が出来たらいいなと思って薬剤師を目指すようになりました。

薬学部に入ってから、徐々に薬剤師に目覚める学生もいる?

一定層いますよね。例えば薬学部の学生団体をやっていていろんな大学の子と話はしますけど、すべり止めとかで薬学部に入って最初はモチベーションがなかったけど、現場と触れ合ったり、先生の話を聞いているうちに、薬剤師ってこんなことやっているんだ、これからいろんな可能性が広がっているんだな、と気付いて薬剤師を目指すようになる子もいますよね。

私は、医療系を目指したきっかけは覚えてないんですけど、人を健康にしたい、将来はお医者さんか薬剤師さん、と言い続けていて、受験の時に医療系を受けようとは思っていました。いざどの学部か選ぶという時に、医療は1対1で患者と接して治していく仕事だけど、薬学部だと薬を開発して1対多でたくさんの人に影響を与えるような道もあるな、と思って薬学部を目指しました。小さな頃から医療の道を目指すって、王道のパターンですね(笑)

大学に入る前と入った後でイメージは違った?

もう全然違いました!薬剤師って医療ドラマにもあんまり出てこないし、薬学部のイメージもあまりありませんでした。でも実際に病院に実習に行ったら衝撃を受けちゃって。そんなドラマみたいにかっこいいもんじゃないって(笑)
うちの大学は、システムが特殊で2年の終わりに学部を決めるシステムで、入る時に薬学部は視野に入れていたんですけど、最初の下調べが悪くって実際には学部の定員80人のうち薬剤師になれるのは1割、8人だけだって。あと残りの72人は研究者って言われて、「あ、これは入る大学間違えたなって(笑)」

大学によってカリキュラムも違うんですか?

大学ごとに2割ぐらいカリキュラムを選べるんですよ。だから大学によってかなり時間の配分は違うと思いますよ。昭和大学は1年の時から現場での実習が多くて、東大や星薬科大なんかは研究の方が多い感じかな?OSCEとかCBTとかの時間割振りも大学によってかなり違います。
■ OSCE/CBT
薬剤師の資格をとるための共用試験。実務実習を行うために必要。OSCEは技能・態度を評価する客観的臨床能力試験、CBTは知識および問題解決能力を評価する客観試験。
うちは単科大学なので、本当に閉鎖された医療の中の孤島みたいな(笑)感じで。他の医療系(医学部や看護学部)とのつながりも少ないから現場という感じが薄くって、研究寄りなイメージですね。

将来進みたい方向性

薬学生は将来進みたい方向としてどんなことを考えていますか?

実習とかも病院中心っていうのもあって、病院志望の子は多いと思いますね。病院を見ていると病院(で働いている薬剤師)はかっこいいな、と思うことが多いですね。処方する時点から薬剤師が介入して薬学的知識を持って医師と対等に渡り合っていたり、まさに「薬理学を使って活躍する薬剤師」っていうイメージがありますね。

実際には調剤薬局やドラッグストアに就職する人の方が全体としては多いと思うけど、まずは病院志望?

大学にはよると思いますね。昭和大学は病院寄りの大学なので、病院志望が多いかな。
星薬科大学とか慶応だと病院2〜3割で、残りは調剤薬局やドラッグストアというイメージです。OBやOGが何をしているか、というのも結構影響しますね。あと、病院は志望していたけど、結局落ちて調剤薬局やドラッグに変える、という子もいます。

調剤薬局やドラッグストアは薬学生を採用するのに必死だけど、全体的な志望度は低い?

学生の中では病院とか研究者、MR(製薬会社)は新卒が有利というのもあって、新卒を有利に使えるところにまずは就職して業界を見たい、という思いが強いと思いますね。薬局は、正直なところ新卒でなくても就職出来るので、病院である程度の業務知識と専門性を積んでから薬局に就職した方が人材として重宝がられる、と言われたりしますね。
病院目指す薬学生は多い反面、落ちることもあるし、病院は給料が安い(笑)ので、奨学金の返済とか考えるとやっぱり薬局に行く方が無難だよね、って言って病院薬剤師を諦める人は多いなという印象です。

働くとしたら、どんな薬局がいいとかありますか?

薬剤師を活かそうという取り組みをしているような薬局の話を聞くと、魅力は感じますよね。例えば、ある実習に行ったところでは、薬剤師を対薬ではなく、対人にシフトしようということで薬剤師のパートナー制度という制度を作っていて、薬剤師と二人三脚で組む非薬剤師のパートナーさんが必ず1人ついて、薬剤師の業務で対人以外の部分を可能な限りサポートしてもらえる。その代わり薬剤師は在宅とか、患者への説明とかそういった部分に注力しましょうという取り組みをやっていて、それはすごく魅力を感じました。

例えば経営に興味がある薬学生とかもいるの?

いますね。新しい取り組みとかをしている薬局とかを見て、自分はこういう薬局がやりたいから経営系も学びたいと思って、そういった子のために経営を志望する薬学生のためのルートを用意している薬局なんかもあるので、そっちを志望するという子もいます。私たちは薬局をたくさん建てた世代の二代目世代だったりするので、そういった親が作ったチェーンを継ぐ、という子もいますよね。

「未来の薬局」ってなんだろう?

自分たちが考える「未来の薬局」はこうなっているだろう、こうなって欲しい、と言うものはある?

カフェとか併設している薬局って最近聞いたりするけど、素敵だなと思う。薬学生の間でも、カフェ併設でその地域の医療拠点になる薬局を作りたいって人もいますし、看護学生の方では地域のナースステーションの中に医療拠点を作りたいって言っていて、どの医療職種でも地域包括ケアの中で「街の医療拠点」みたいな存在が作れればいいなとは思いますよね。
僕は自分がほとんど病院にも薬局にも行かないんだけど(笑)、それでいいとは思っていなくって、若い人が医療にアクセスせずに医療者にも知り合いが出来なくって、自分の判断で薬を飲んで合っているかどうかもわからない。そういう人達が結婚して家庭を作って子供が生まれました、ってなった時に、もし子供に何かあって、どこに相談に行けばいいのかも、何をしてあげればいいのかもわからないような、そんな社会は不幸だなっていう思いが根底にあって、今の病院とかに行かない人にもっと医療を近づけないといけないんだなと最近感じてます。
薬局って医療機関とか病院とかの外にある場所だから、本当はすごくいい場所なのかも。健康な人にアクセスしやすいところにいるはず。
ワクチンとか将来、薬局で出来たらいいなって思うんですよ。ワクチンって健康な人がやるものだから。周産期とか小児期って唯一健康な人が医療にアクセスするタイミングだから、そこにアクセス出来るようになったら何か変わるんじゃないかなって最近思います。ワクチンっていま凄い複雑だし、日本は世界的に見てもワクチンの接種率が低いと海外からも指摘されてて、そういった事を薬局とかでも講座を開けたらいいなって。そこでお母さんが薬局っていいなって思ってもらえたら子供にも伝わっていくから、次の世代の薬局のイメージを変えていくのは小児・周産期だと思います。
いまかかりつけ薬剤師の制度とかが出来て、お金かかるよ、と言われると「なんで?」とか思っちゃうけど、信頼できる薬剤師の人がいて、この人のおかげで病院に行かないでも相談にのってくれる、こんなことをしてくれる、って患者さんがわかってくれるなら多少のお金なんて気にならないのかなって。究極的には患者さんがやって欲しい事に寄り添えるのが薬剤師としてあるべきなのかな、って私は思うので、何をして欲しいか言ってもらえるような人に薬剤師がなれれば、薬剤師のイメージも上がるし、薬剤師に相談しようって人も増えてくれるかなって思います。
社会の中で人と人のコミュニケーションが減ってるって言うのが学生の間でも話題になったことがあって、相談する、相談してくれる、っていうコミュニケーションがだんだん取りづらくなっているけど、まずは人として仲良くなれたらいいんだと思います。友達で医療者がいると凄い助かったりするし(笑)私の知ってる薬剤師の方で、まだ30代なので子供のパパ友を通じて地域の人とも仲良くなって、商工会なんかの活動もしている方がいます。普段は気のいいパパ友だけど、その世代はちょうどこれから介護者になる世代でもあるので、そういった時に初めて町の医療者としてつながりのある介護事業者とか医療機関と繋いてあげていて、そういった形でのゲートキーパー的な役割もあるんだよって話を聞きました。その話を聞いた時に、町に根ざした薬局って、薬局が町に根ざすんじゃなくて、そこで働いている人が町に根ざしているんだなって思いました。そうやって町のネットワークを薬局拠点に作っている話は未来の薬局として増えて欲しい。
子育て講座みたいな事から始めたらもっと薬局が身近になれるのかも。2世代一緒で、その子供が育って、あの薬剤師さんに2世代お世話になっています、って。そういう意味では学校薬剤師も一役買うよね。そこに生徒だけでなく学校のお母さんお父さんも来てくれたら、もっと薬局・薬剤師が町に根ざせるよね。

薬局でインターンさせてもらった時に、その薬局では無菌調剤とか専門的なこともやりつつ、そこにいらした患者さんが「〇〇さん、いる?」って聞いてて。その現場を見た時に、自分もここで働いたら私を選んでくれる人が出来るのかな、って言うのがすごく感銘を受けて。やっぱり医療者として、誰かの役に立ちたい、患者と触れ合いたいっていうのがありつつも、「あなたがいい」って言ってもらえるようになるのが本望じゃないですか。それはどんな仕事でも一緒だろうけど。

そんな世の中になれば、もっと薬剤師の水準も上がるしね。勉強もするようになるし。

座談会を終えて

今回、薬学生4名にMCFのオフィスに来て頂き、開催させていただいた座談会。最初は少し硬かったみなさんも、最後は喋りたいことが溢れて大盛り上がり、2時間の長丁場。この場には書けないような話もあってかなりカットさせていただきました(笑)
学生団体の活動を行っている方たちだから、という事も影響しているとは思いますが、みなさん非常に真面目に「医療者」を考えていて、「文系の学生なんて(自分も含め)大学の頃なんて遊ぶことしか考えてなかったけど、薬学生ってみんなそんなに意識が高いの?」と意地の悪い質問をしてみたところ、そこで言われた事が印象的でした。

『いい加減な人もたくさんいますよ(笑)。でも現場に出ると変わるって5年生の先輩からも言われました。授業も全然出席していなかったような人が、現場に出て、現場に出ると嫌でも患者さんと1対1で、そうすると適当な事できないじゃないですか。誤投与だってありえるし、その監査役として患者さんの命を任されたってなると嫌でも自覚が芽生える、って聞きました』

今回は、実際に現場で働いている人ではなく、これから未来に向けて医療の世界に羽ばたいていく学生に話を聞きました。だからこそ、「世の中の人を健康にしたい」「患者の思いに寄り添いたい」という医療者の原点とも言える部分が素直に出てきて、改めて本質はどうあるべきか、考えさせられました。
そして、その中で医療者が背負うべき責任の重さ、医療とは究極的には人と人との対話であると言う事に気付かされました。

「未来」という言葉の中には、どうしてもシステマチックになっていく部分、ITなどにより人が介在する領域が減る方向をイメージしてしまいがちですが、「医療の未来」はその延長では語れないのではないかなと感じています。
「未来の薬局」は、「健康な人も含めた人がふらりと立ち寄れて、身近な医療者が相談に乗ってくれる場所」としての「薬局的機能をもった何らかの町の施設」であり、「そこで地域の人と薬剤師が人対人でつながりを持っていて」、「その場所が薬剤師の医療者としての自覚と能力を磨く」、そんな施設であってほしい。

そんなことを感じさせてもらえた今回の座談会でした。

ということで、今回の企画は最終回とさせていただきます。

1年間、全8回に渡り読んで頂きありがとうございました。
4月ぐらいから、また違う企画で、「医療をわかりやすく」出来るような連載をしたいなと考えています。期待せずにお待ちください(笑)
あと、一応宣伝ですが、うちの媒体で記事書いて欲しい何ていう依頼も受けてつけておりますので、お気軽にご連絡ください!