京急線横須賀中央駅から歩いて5分ほどのタワーマンション3階にある医療モール。ここに2年前に移転した横須賀中央眼科は、横須賀、衣笠、鶴見に3院の眼科を運営する中央眼科グループのひとつ。『横須賀にいながらにして世界レベルの最新医療を提供したい』との想いで20年前に開業した院長・勅使川原剛先生からその経営のポイントについてお話を伺いました。
目次
開業当初の思いから留学を決意
―横須賀中央眼科を開業されてからこれまで、どのような思いで日々診療をされていますか?
開業当初からこれまで一貫して『横須賀にいながらにして世界レベルの最新医療を提供したい』という理念でやっています。その理念は今も変わっていません。開業してすぐは手術もやっていなかったのですが、開業2年目からは手術もやるようになりました。当時はとにかく最新の医療にこだわって毎日必死にやっていて、今思えばかなり無理をしていたと思います。一人ですべてをやっていたこともありますし。ただ、最新の医療には医療知識はもちろんのこと、お金も大切だということもわかりました。ですので、自分のやりたい医療を実現するには、経営に関する知識が必要だということに気づいたんです。そこで、留学してMBAを取ろうと思い立ちました。
院長留学のために“医療”と“経営”を分離、チームで経営する体制へ
―医院を経営しながら、留学という決意はすごいですね。院長の留守中、クリニックはどうしていたのですか?
はじめは経営感覚のある医師に任せようと思ってそんな人を探しました。でも経営感覚のある医師ならばもうすでに自分で開業しているでしょうし、そんな人は簡単には見つかりません。そのようなタイミングで偶然、医療法人の経営経験のある現在の経理担当を紹介してもらい、その人に医院の経営を任せて海外に行きました。でもそれが功を奏したというか、医療と経営とを分けることで私が留学でいない6年間、現状維持どころか新たに2院を傘下に入れるほど拡大させることができました。
―留学を終えて戻られた現在はどのように経営されていますか?
MBAをとって戻ってきた今は、経営チームを組んで医療法人を運営しています。医療のマネージャーは私、経理のマネージャーは経理担当、そして看護、事務にもそれぞれマネージャーを立て計4名でマネジメントチームを組んでいます。医療法人の経営に関わるあらゆる決定も、あくまでマネジメントチームにおける多数決で行う、という方針にしています。よくあるのは、チームで話し合っても結局最終決定は院長だというものです。でもそれだとチームを組んでいる意味がないですし、活発な意見も出なくなってしまいます。そうならないために、当院では4人が同じ決定権を持つチームにしています。ですから、院長の私が提案してもほかの3名が反対なら却下という判断になります。結果としては、それが良いバランスになっていると実感しています。だからこそ、クリニックの経営が順調なのかなと思っています。全員がそれぞれの専門的な立場で対等な話し合いをすることが大切だと感じています。
―なぜそのような運営方針にしたのですか?
一人でやるよりも、それぞれその道のプロに任せる方がうまくいくと思ったからです。
開業当初は、医者はみんな不安だから、あらゆる人に頼りたくなるんです。でも少し軌道に乗ってくると、コンサルティングや経営に関するアドバイスをくれる人にお金を払うのがもったいなく感じて、自分一人でできるような勘違いをしてしまうんです。でも実際は違うと思います。規模が大きくなればなるほど、医療と経営を一人でやるのは大変になりますし、医者が医療以外のことに時間を取られて医療に集中できなくなってしまうんですよね。それでは本末転倒なので、医者自身が本業である医療に集中するために「その道のプロに任せる」というのは必要な考えだと思っています。形あるものではなくコンサルティングなどの形のないものにもきちんと投資していくことが、医者が医療に集中できる環境を作ってくれると思っています。それが結果的に、クリニックを大きくしていくことにつながっていくと考えています。
患者への情報発信に力を入れて様々な媒体を活用
―マネジメントチーム以外で医療機関経営で気をつけているポイントなどを教えてください。
経営のためにはまず患者さんに来てもらわなければなりませんから、患者さんへの効果的な情報発信には特に力を入れています。いろんな年代層の患者さんや複数医院で地域性も異なりますから、情報発信の手段は限定せず、ホームページやパンフレットなどの紙もの、院内サイネージなど幅広い媒体を活用するようにしています。
―ホームページを積極的に活用している医療機関は多いと思いますが、院内サイネージはまだまだ活用しているところは多くありません。貴院ではどのような考えで利用していますか?
ホームページは広く患者さんを集めるために有効ですが、その一方でそこに書かれていることが本当なのかどうか、疑いを持った目で見られているのも事実です。そんな中でも選んでいただくために、自院のコンセプトを患者さんにとってわかりやすい言葉でしっかり発信することが大切です。
院内サイネージは情報のアピール力が魅力
院内サイネージの良いところは、来院した時点で患者さんはある程度当院を信頼してくれていて、院内サイネージで流れている情報に対して一定以上の信頼を持った状態でスタートできる、という点だと思います。ですので、情報のアピール性が最も高いのは待合室の院内サイネージだと思いますね。実際にはその疾患には関係ない患者さんからも問い合わせや相談があるほどですから。「先生、待合室のテレビで観たんだけど」というきっかけからその疾患について説明すると、口コミでご家族やご友人を連れてこられる患者さんもいます。そういえばこの前クリニック名を入れたナレーション(「横須賀中央眼科では〜」というナレーションが入った番組)をつけた番組を放映した時はすごく反響がありました。ふだんは待合室でスマホを見ているような若い患者さんでもフッと顔をあげて見てくれましたし、実際に番組で紹介しているレーザー治療に関する問い合わせが非常に多かったです。
ホームページや院内サイネージは売り込みだと思われている方もいるかと思いますが、それは違いますね。きちんと自院について知ってもらうという視点が大前提にあり、その結果、患者さんからの相談につながったり、治療や検査数がついてくるのだと思います。情報発信もひとつのコミュニケーション手段ですからね。
「時間経過と将来予測」を意識したわかりやすい説明
―では実際の診療の中で、患者さんとのコミュニケーションをとる上で気をつけていることはありますか?
診察時には画像を使って、症状についてわかりやすく説明するようにしています。患者さんは不安で来ていますから、その不安を少しでも解消してもらうためのわかりやすい説明を心がけていて、「時間経過と将来予測」も意識しながら話すようにしています。今日この状態でした、という説明だけでは不十分です。特に慢性疾患の患者さんには、「これまでどうだったから今後このような経過をたどると思います。なので、次はいつ来てください。」というように将来の予測まで説明することを意識しています。すべての患者さんが100%理解できているとは思いませんが、「ふつうの患者さんが理解して、きちんと納得できる」ことが大切なのではないかと思っています。
接遇の基本はイーブンな関係としっかりしたコミュニケーション
―接遇面などで気をつけていることはありますか?
これはスタッフにも言えることなのですが、患者さんと医療者側が対等であることを意識しています。以前は医者が上、患者さんが下、現在はその逆になっているような風潮もありますが、まったくイーブンなのが本来のあるべき姿だと思います。よく「ホスピタリティ」の一環で患者さんのことを「患者様」と呼ぶべきだなどの話がありますが、ホスピタリティはそんな上辺だけの対応じゃないと思うんです。患者さんと対等であることこそがホスピタリティだと思っています。患者さんがあまりに無茶な要求をしてきたら、きちんと断るという姿勢も大切です。その上で患者さんとしっかりコミュニケーションをとってお互いの距離を縮めることが、ホスピタリティの真の意味ではないかと考えています。
教育の基本は、自分が実践して背中を見せること
―医療経営においてスタッフ教育はとても大切だと思いますが、中央眼科グループではどのようにやっていますか?
外部講師を招いた勉強会などもやっていますが、やはり上の者の背中を見せるのが一番良いと考えています。いくら口で言ったところで、それを言った人が実践していないのでは説得力に欠けますから。上の者が率先して実行することで、その背中を見てスタッフがついてくる。まず、マネジメントチームがしっかりと経営方針や理念を共有して、その上で私も含めたマネージャーが『己の背中を見よ』という姿勢を見せることが一番効果的だなと思っています。