千葉県市川市にある「きし内科クリニック」。2016年、市川駅と本八幡駅の中間に、呼吸器内科、アレルギー科を専門としたファミリークリニックとして開業しました。
開業前は高齢者の多い地域の病院で呼吸リハビリテーションチームを立ち上げ成功。開業したクリニックでは、子育て家族向けの診療で順調に患者が増えています。
今回は院長の岸先生に、地域によって異なるニーズを読み取り、それに合う医療を提供するために実践してきたことについてお話を伺いました。
目次
整形外科のリハビリセンターで、呼吸リハビリチーム立ち上げ
―どうして医師になろうと思われたのですか?
子どもの頃から医師を目指していたわけではなかったのですが、かかりつけにしていた小児科の先生が好きでした。いつも優しく接してくれて、聴診器をさげて胸の音を聞いて、お薬を出す。それが「町のお医者さん」のイメージでした。
それから進路を決める時期になり、何を目指そうかと考えていたところ、祖父母が立て続けに病気になったことがきっかけで、人を助けられる医師になろうと決めました。
もともと町のお医者さんへの憧れはあったので、総合的に診療ができるようになりたいという思いで、内科、その中でも呼吸器内科を専門でやっていこうと決めました。大学院の頃は、所属していた医局の教授がアレルギー性肺疾患の権威だったということもあり、アレルギーに関する研究に打ち込みました。
―現在もアレルギー科を標榜されていますが、その頃から専門にされていたんですか?
実はそういうわけではないんです。医局から三島に赴任していた時期があったのですが、土地柄、高齢の患者さんが多かったんです。この土地のニーズは何かを考えたとき、高齢者が多いということは、「今後、呼吸の苦しくなる人が増えてくるんじゃないか」と思いました。
たまたま赴任した病院が整形外科の専門だったということもあり、とても広いリハビリセンターが併設されていました。そこで、「呼吸リハビリチーム」を立ち上げて、看護師や管理栄養士、理学療法士たちとチーム医療に取り組みました。
「この先生に診てもらいたい」という患者を集めるため、開業地や方針を決定
―その経験を経て、先生の地元である千葉で開業されたというわけですね。開業場所をこちらに決められた理由はなんでしょうか?
自分が開業するにあたり、クリニックとしての強みを考えたとき、「この先生に診てほしいから行く」という患者さんを増やしたいと思いました。ですから、そういう患者さんが相談しやすいよう、あえて駅から離れている住宅街を選びました。自分の性格からも、患者さんとじっくり向き合える場所が合っていると思います。
また市川という土地は、三島とちがって患者さんの年齢層が若く、しかも子育て世帯が多いんです。私はもともとアレルギーが専門でしたし、お子さんも多いエリアなので、呼吸器内科とアレルギー科と小児科、というファミリークリニックにしようと考えました。
―ご開業にあたり、再び方針転換されたわけですね。
そうですね。やはりその土地によって住んでいる方も違うので、ここに自分が住んだときにどんな医療が必要とされているのかを考えて、提供する医療を変えていくというのは大事なことだと思います。
伝わりやすい言葉と次回の方針説明を重視
―ニーズに合った医療を提供するために、診察時に気をつけていることはありますか?
患者さんに伝わりやすい言葉で説明することは、常に心がけています。あわせて模型なども使って、視覚的にもご理解いただけるようにしています。
例えば、鼻詰まりはなぜ起こるのか、という説明のとき、患者さんは「何かが詰まっている」と勘違いされていることが多いんです。しかし実際は、鼻の粘膜がせまくなってむくんでいるから通らなくなっています。それを模型での実演も交えて説明して、むくみをとるお薬を出しますね、と伝えたりします。
また、次回の診療方針を視野に入れた説明も、必ずするようにしています。1回で治療できるのならそれに越したことはないのですが、症状によっては治らないこともあります。そのような場合を考慮して、次回来ていただく必要があった際の方針についても説明します。例えば、その症状に合う強い薬を処方することは可能ですが、患者さんの既往や常用薬と総合的に考えると、その強い薬を出さないほうが良い場合もあります。このような私の考えをきちんと説明して、治らない場合は次回いつ頃来院してください、と事前にお伝えしています。
また、診察の最後には必ず、「ご質問はありますか?」というお声掛けも忘れないようにしています。あれも話したかったのに、と思って診察室を出ることのないようにしたいと思っています。特にお子さんのことについては、今回の症状以外にも話したいことがある方も多いので、疑問点はすべて解消してお帰りいただけたらと思っています。
看護師と連携し、患者の話にじっくり耳を傾ける
他には、診察の際、医師が聞かなくてはならない要点は最初にきっちり聞いて、最後にも言い残しがないように必ず声をかけるようにしています。ご高齢の患者さんなどは、診察時に症状とは関係ない話から始まって長くなってしまうこともあるので、事前に看護師に予診をしてもらって、要点を整理してもらいます。時間が許すのなら、患者さんのお話は医師がすべて聞いたほうがいいと思いますが、待っている方もいるとむずかしいこともあります。またあわせて、看護師の予診では、患者さんのご家族やお住いについてなど、周囲の状況をお聞きすることもあります。周囲の状況を知っておくことは、診察していく上で病気の原因を探るヒントになることもありますので、大事な情報は看護師と連携してお聞きするようにしています。必ずしも医師がすべて聞けない場合でも、患者さんのお話をじっくり聞く、ということは可能だと思います。
不満解消のための予約システム導入で、診察できる患者が大幅増
―診察以外にもニーズを読み取って実行されていることはあるかと思います。予約システムもその一つだと思いますが、患者さんからのニーズがあったのですか?
患者さんから直接何かリクエストがあったわけではないんですが、開業して2年目の冬に患者さんの顔が不満そうになってきているのを感じました。というのが、冬というのもあって患者さんが多くなる時期で、待合室が座れないくらい混雑する日が続いていました。その上、自分があとどのくらい待つのかの表示もないので、それが不満の原因だと思いました。
そこで順番制の予約システムを導入することにしました。すると、朝だけは直接来院された患者さんで多少混み合うことはあっても、その後は皆さん順番通りに来てくださるようになりました。すると、待合室の混雑も解消されて、こちらも非常に楽になりました。以前は1日に80人来ていたら待合室が混雑して大変だったのですが、今は100人来ても「今日は空いてるな」と思うくらい、スムーズに診察が進むようになりました。予約システムを導入したことで、患者さんは自分がどのくらい待つのかわかるようになりましたし、私は診られる患者さんが増えたのでとても助かっています。
患者への情報発信は、「知りたいであろうこと」を意識
―ホームページやサイネージもニーズを意識されているのでしょうか?
そうですね。ホームページについては、開業以来毎月、クリニック通信を更新しています。患者さんは最新号を見ることが多いので、あまり専門的すぎる内容にならないように、季節の情報がローテーションしていく中に少しそのときのトピックスなども入れて更新していくようにしています。患者さんが知りたいことというのは専門的なことではなく、季節に応じた病気の情報だと思うので、それが探しやすく掲載されていることが重要だと思います。
メディキャスターについても、ここに通っている患者さんたちが比較的かかるである病気をピックアップしています。またその中でも、特にお母さんが心配するんじゃないかと思われるトピックについては通年で放映したりしています。通年放送するものと、季節にあわせて放送するものと、自分の中でローテーションを組んで更新しているので、運用も簡単です。はじめは、せっかく病院に来るのだからそこでしか得られない情報を少しでも発信できたらと軽い気持ちで採用しました。しかし実際に運用してみるとコンテンツの種類も豊富で、わかりやすく医療について勉強できる内容になっていますし、心理的な待ち時間も大幅に短縮されるのでとても重宝しています。私はその中でも、カロリークイズが身近で楽しいので、好きですね(笑)
ニーズに応える医療を提供することが自身のモチベーションにつながる
―ありがとうございます。お話を伺っていると、先生はいつも患者さんのニーズを意識されていますよね。
そうですね。自分がそこに住んでいる人だったら何を考えるか、自分が患者さんの立場だったらどんなことに困るか、などと考えて、よく観察しています。また、診察のときには、患者さんがなぜ来院したのかに耳を傾けるだけでなく、なぜそのような困った状況になったのか、という背景も推察しながら診察します。ご高齢の方であればご家族や介護の状況、お子さんであればご両親や発育などについてもお悩みがあるのではないかと考えながらお話を聞くようにしています。その日の症状だけでなく、病気の起こる根本について考えていると、ある日はっと気づくこともあるんです。
根本を考えながらニーズをよく観察して、その求めているニーズに合う医療を提供することで、患者さんに喜んでいただきたいと思っています。それが私自身のモチベーションにもつながり、より良い医療を提供し続けることにつながっていくと考えています。